「DXをどこから始めればいいか分からない」。静岡県内の企業からこうした声をよく聞きます。しかし実は、静岡県は全国トップクラスの「デジタル先進県」であることをご存知でしょうか。
通信インフラやデジタル人材といった基盤は全国上位に位置しているにもかかわらず、現場では紙文化や属人的な運用が根強く残っています。
本記事では、この意外な“ギャップ”が生まれる背景を整理し、静岡県の強みを活かしたデジタル変革の道筋を解説します。
1. 静岡県のデジタル度は全国上位
静岡県は全国でもトップクラスのデジタル基盤を持つ「デジタル先進県」です。まずは、その根拠をデータとともに確認していきます。
1-1. 静岡は全国屈指のデジタル先進県
野村総合研究所(NRI)が発表する「都道府県別デジタル・ケイパビリティ・インデックス(DCI)」は、①市民のネット利用、②デジタル公共サービス、③コネクティビティ(端末・通信インフラ)、④人的資本(デジタルスキル)の4要素で構成される指標です。
静岡県は2023年版のDCIで最上位の「第1グループ」に分類されています。2022年版でも福井県、東京都、茨城県、富山県に次いで第5位と、安定して上位を維持しています。
DCIの4区分別地域分布と構成要素別スコア(2023年)

なかでも評価が高いのは「コネクティビティ」の分野です。2023年の調査では全国第8位(スコア18.0)を記録し、高速通信インフラの整備状況やPC・スマートフォンの普及率が全国平均を大きく上回っています。また、「人的資本」でも第8位(スコア14.3)と、デジタルスキルを持つ人材が豊富です。
つまり静岡県は、企業がDXに取り組むための“土台”が整った地域だと言えます。
1-2. 企業現場ではデジタル化・DX化が進まない現実
一方で、県内企業の現場を見ると状況は異なります。「紙の伝票を使い続けている」「システム化は一部だけ」「最終的にはベテラン頼り」多くの企業でこうした声が聞かれます。
帝国データバンクの調査によると、静岡県内企業でDXに取り組んでいる割合はわずか19.8%。静岡県産業振興財団も「中小企業のIT活用が停滞している」と指摘しています。
「デジタル力の高い地域」でありながら、企業側の変革が追いついていない。この落差こそ、静岡県が抱える大きな課題と言えます。
2. 静岡企業のデジタル化が進まない理由
デジタル環境が整っているにもかかわらず、なぜ企業のDXが進まないのでしょうか。そこには、地域企業に共通する4つの要因があります。
2-1. 現状維持への安心感が変革を鈍らせる
前述の通り、静岡県内でDXに取り組む企業は2割に満たない状況です。その背景には、「現状でも業務は回っている」という安心感が大きく影響しています。
多くの中小企業では「大きな問題がないから急ぐ必要はない」と考えられ、デジタル化が後回しにされがちです。しかし、その姿勢が文化として根づくと、変革が必要な場面で動けなくなるリスクがあります。
2-2. リソース・スキル・人材のミスマッチ
静岡県は「ふじのくにICT人材確保・育成戦略」を進めていますが、全国的に見てもDX推進の最大の壁は「人材・スキル不足」であり、静岡も例外ではありません。
特に中堅・中小企業では、IT担当者が兼務であったり専任がいない場合も多く、「必要なスキルが分かっていても確保できない」「育成したくても時間もコストもかけられない」という状況が続いています。
2-3. システム化・IT投資の“断片化”
静岡県には、IoTやAI導入を支援する制度も充実しています。しかし、現場では「見積システムは導入したが、請求書はExcelのまま」「販売管理はシステム化したが、会計とは連携していない」といった部分最適化にとどまるケースが多く見られます。
この断片化は業務を複雑にし、データの重複入力や転記ミスを招き、「システムを入れたのに効率化されない」という悪循環を生みます。
2-4. 変革に向けた“思考転換”の壁
デジタル化を「作業を少し便利にするための手段」と捉えている企業も多くあります。しかし本質は、データを活用して意思決定を迅速かつ精緻にすることにあります。
また、「まずは紙をなくす」という発想だけで進めると、かえって現場の使い勝手が悪くなる場合があります。古いノートPCの狭い画面で大量の伝票の突合せをする所を想像してみてください。嫌になりますよね?紙の帳票は一覧性が高く、承認フローも分かりやすいため、単純に置き換えるだけでは逆効果になることもあります。
重要なのは「紙をなくすこと」ではなく、「データをどう活用して経営に貢献するか」という視点です。目的が曖昧なままでは、トップが掛け声をかけても現場は動けません。
3. 企業のデジタル化における4つの段階
静岡企業のDXが停滞する背景には「目的の不明確さ」もあります。ここでは、デジタル化の進度を4段階に整理します。

3-1. 電子化(第1段階)
紙の見積書や伝票をExcelに置き換える、多くの企業がまず取り組むのがこの「電子化」です。
データの検索や修正が簡単になり、保管スペースも削減できます。しかし、実際にはExcelファイルが乱立し、バージョン管理に悩まされたり、結局印刷して使ったりと、「デジタルなのにアナログ的な運用」が残ることも少なくありません。業務は少し便利になっても、劇的に楽にはならないのがこの段階の特徴です。
3-2. IT化/システム化(第2段階)
販売管理システムや会計システムなど、専用のシステムを導入する段階です。
「見積→受注→納品→請求」といった一連の流れがシステム内で管理され、転記ミスが減り、処理スピードも向上します。しかし、システムごとにデータが分断されていると、結局は手作業での連携が必要になります。「システムは入れたが、全体としては非効率」という状況に陥りやすいのもこの段階です。
3-3. デジタル化(第3段階)
この段階では、デジタルとアナログの垣根を越えて、人・システム・部門間で情報がスムーズに流れる仕組みを構築します。重要なのは「すべてをデジタルにする」ことではなく、それぞれの強みを活かしながら情報を循環させることです。
例えば、現場の作業者には見やすいディスプレイや紙の帳票で情報を提供し(デジタル→アナログ)、現場からの情報はIoTセンサーやQRコード、AI-OCRなどで自動的にデジタル化する(アナログ→デジタル)。人が使いやすい形で情報を提供し、収集した情報は自動的にシステムに取り込まれる、こうした柔軟な仕組みが実現します。
結果として、経営者は必要な情報をリアルタイムで把握でき、データに基づく迅速な意思決定が可能になります。「完全なデジタル化」を目指すのではなく、「情報が最も効率的に流れる状態」を作ることが、この段階の本質です。
3-4. DX化(第4段階)
デジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを変革する段階です。製品販売からサブスクリプションへの転換、AIを活用した新サービスの創出など、事業そのものが変わります。
ただし、すべての企業がこの段階を目指す必要はありません。実際、DX化を実現できている企業は国内でもごくわずかです。多くの企業にとっては、第3段階の「情報活用による意思決定の迅速化」で十分な価値を得られるでしょう。
大切なのは「自社は今どの段階にいて、どこを目指すのか」を明確にすることです。この見極めができていないと、必要以上の投資をしたり、逆に必要な変革を先送りしたりすることになります。まずは現在地を把握し、目指すべきゴールを設定する、この当たり前のことが、DXにおける最も重要な要素です。
4. デジタル変革、地域の伴走者ならバーチュー
デジタル基盤が整っている静岡県ですが、企業の多くは第1~2段階で足踏みしている状況です。この“もったいない”状態を解消するには、地域特性を理解し、企業の現在地と目標をともに確認できるパートナーが不可欠です。
「何から始めるべきか」「どのシステムを選ぶべきか」「自社はどこまで取り組むべきか」といった疑問に対して、教科書的な答えではなく、その企業の実情に合わせた具体的な道筋を示す必要があります。
バーチューは静岡を拠点に、地域企業のデジタル化を支援してきました。「なぜデジタル化するのか」という目的の整理から、段階的な導入計画、導入後の活用まで一貫してサポートします。
デジタル先進県である静岡のポテンシャルを最大限に引き出し、企業ごとに最適なデジタル化の形をともに見つけていく、それが地域に根ざした伴走者としてのバーチューの役割です。あなたの会社も、次の一歩を私たちと一緒に踏み出してみませんか。
▼バーチューに相談をする▼